ジョジョ4部の吉良吉影は、「早人の前で自分の名前をうっかり口に出してしまい、それを近くにいた仗助に聞かれた」のが原因で正体がバレ結果的に敗北した、なぜ意味もなく名乗ってんだアホすぎるみたいな話を見かけたので、いや、吉良が名前を言うのは不自然じゃないのでは? という話をさせてください。
まず、吉良は植物のように、静かに、平穏に暮らしたい人間なんですね。音楽や芸術を愛し、仕立ての良い服を着て、公園の木陰でサンドイッチを食べながら美しい町の風景を眺める、本来ならそういう人生を送っていたはず。
でもたったひとつ、その人の根源とも言える部分・性(サガ)に、致命的な歪みを持ってこの世に生まれてしまった。それが「人を殺さずにはいられない」という性。
そのせいで、本来なら平穏な性格と高い能力で誰からも愛されたはずの吉良は、誰にも自分の本性を打ち明けることなく、理解されず、友人も恋人もいない、闇の中を生きてきたわけです。
だから吉良って「今から間違いなく殺せると確信した相手」にはやたらと自分語りするんですよ。本当ならいつでも誰にでも本性を打ち明けて自分を知ってもらいたいけど、知られると忌み嫌われ処分されるから、殺す相手にだけお喋りが弾むんですね。早人とか、靴のむかで屋の時の康一くんとか、“彼氏耳ピアス”の女性とか救急隊員の女性とか。
吉良の最強の能力バイツァ・ダストの発動条件のひとつが「自分(吉良)の正体を知った人間」っていうの、最初読んだ時 荒木先生すごいなーって思いましたよねー。
というわけで、追手を一網打尽にできるような勝利がほぼ確定し、“敵”に打ち勝ったと確信した吉良は、そりゃあその時こそ、
「この吉良吉影に―」
って名乗るんじゃない?という話でした。
吉良はキャラクターとしてすごい魅力的で、ジョジョの全登場人物の中で一番好き。
殺人なんてどんな理由があろうと絶対に肯定されるべきではないけど、吉良は本来の自分と、あまりにも相反する呪われた性(サガ)を、ある種受け入れて前向き(と言っていいの?)に生きてるところが興味深い。
普通、マンガってこういうキャラを描く時に動機とかトラウマとか、悩んだり苦しんだり葛藤したりの……言っちゃあれですが よくある描写 入れません? それがまったく無いのが、逆に考えさせられるというか。性格や人生に関係なく、ただ「そういう風に生まれてきた」だけ。僕らは吉良より争いを好む性格で能力も低いけど、ただ歪みのない性を持って生まれてきただけ。
人を殺さずにはいられない等の、社会的に決して認められない歪みを抱えて生まれて来た人たちのこと思っちゃうよなー
猫草戦で川尻しのぶのことを案じて守ろうとした自分に驚く描写があったけど、ひょっとしたら何か……ほんの少し違っていれば、何か 世界と折り合いをつけて育っていけたのかもなーとか